42.第七話 womanの過去 井川ミサトはあえて自転車通学をすることで肉体を鍛えていた。電車とバスで行けばいいものを常にシンプルなギアすらない自転車で行動して肉体強化トレーニングを日々の暮らしの習慣に取り入れた。 高い守備力は高い集中力から生まれる。集中力を欠かさないためにはまずは体力だというのがミサトの出した答えであった。 守備のスペシャリストである【護りのミサト】の点箱は金庫と言われる程、一度手にした点棒は出さない。ミサトから引き出すにはツモるしかないと皆がそう思うくらいにはミサトの守備には隙が無かった。 ある夜、ミサトがトレーニングで走っていたらカオリがいた。バイト帰りだろうか。 話しかけようとしたが、カオリは誰かと話していた。ケータイで通話中だろうかとも思ったが両手は上着のポケットだしイヤホンもしていないように見える。(誰と何を話してるんだろう) ミサトはなんだか怖くなって聞けなかった、それにカオリは楽しそうに話していたので放っておくのが一番かもと思って空気の読めるミサトは見なかったことにした。 でも、いつかはこの日のことを教えてもらおうと思ったのだった。◆◇◆◇ カオリはその日、赤伍萬キーホルダーの前の持ち主のことをwomanに聞いていた。「ねえwoman。あのキーホルダーを私にくれた彼はどんな人だったの?」《ああ、彼はねえ。面白い人でしたよ。とっても走るのが速くてね。麻雀も速度と手数で勝負するタイプでした。韋駄天なんて呼ばれてて。麻雀も人間性も良かったです》「へぇ。好きだったんだ」《ちょ、カオリ。私は付喪神ですからね? でも、まあ。うん…… 少し考えが足りない所やヤンチャな部分もありましたが、基本的にはとても善良で、虫も殺さないくらい優
43.第八話 クイズ 財前姉妹はバイトで部活でと麻雀を打ち続けた。実践経験も積みながら研究も怠らず、同じ高みを目指す仲間も揃っている。環境に恵まれていた彼女達の成長速度は凄まじいものであった。その上カオリは神様からのコーチまで受けているのだから上手くならないわけがない。 ハッキリ言ってカオリは凡人だった。勉強は出来るけど天才というような大袈裟なものではないし、スポーツも特に普通の結果しか出せない。ただの少女。なにか特別なことがあるかと言えば、麻雀がとてつもなく好き、異常な程に。ということだけだ。そこだけが平凡ではなかった。 しかし、それこそが才能というものであり、天才とはそのたった一つの”異常な程好き”があれば誕生するのである。 ──── カオリ達のバイト先は女流プロの成田メグミという選手が平日働いていた。学生のカオリ達とはシフトが被らないので会った事がないのだが、彼女が居るのでこの麻雀『ひよこ』には毎月いくつかのマニアックな麻雀雑誌が届く。なんでも読むカオリはその雑誌『月刊麻雀プロ』にも興味を持ち読んでいたらマスターから「お姉さんと一緒にプロ試験受けてみたら? 試験は来月末だから勉強する時間はあるし、受験料は店が出すから」と言われた。「へっ!? 私がプロですか?」「カオリさんもマナミさんもたいした腕だ。これからの麻雀界に必要な才能だよ。挑戦しておいでよ! プロの世界に」「でもまだ私は大学生だし。早くないでしょうか」「早いくらいがいいのさ。人生はそんなに長くないぞ」 カオリは自分にそこまでの力があるとは思えなかった。しかし、これこそがカオリの良さで、いつまで経ってもまだ未熟だと本気で思うカオリだからこそ、鍛錬をサボらない。慢心しない。いつまでもチャレンジャーなのだった。「大丈夫だ、カオリさんもマナミさんもプロになれるよ! 受けてみなよプロ試験!」「……
44.第九話 もう1人の受験者 私、財前マナミ。今度プロ麻雀師団の試験を受けるから只今猛勉強中よ。 カオリに例の数え役満のクイズを出したらやっぱりというか予想はしてたけど、解けなかった。 カオリはどこまでも真面目なのでアンカン3つして裸単騎にするなどと言う非現実的な答えには辿り着けないだろうなとは思ったが、案の定だった。カオリはなぞなぞ的な問題は苦手なのだ。しかし、その他の『4人が4人とも②③の2面待ちだった。4人の待ちの形を答えなさい』とか『現在1600の仮テンをしている。手替わりAを引けば8000点。手替わりBなら12000点。手替わりCなら32000点になる仮テンだ。現在の仮テンはどのようなものか答えなさい』といった問題は解けたので頭がカタイというわけでもないのだが。 まあ、マスターが言うには別に満点である必要はないから気負わなくても2人ともきっと合格すると思う。と言われたけど、そんな事言われたら落ちた時恥ずかしいので余計に勉強しとかなきゃとなったわよね。◆◇◆◇ 財前姉妹がバイト先で勧められてプロ試験を受けようとしている時、もう1人プロ試験を受けようとしている者が麻雀部にいた。井川ミサトである。 ミサトはプライドが高いので落ちた時のことを考えて今回のプロ試験を受けることを誰にも言っていない。ちなみにカオリ達も誰にも言ってないので試験会場で見つけてお互いに驚くことになるのだが。(プロ試験受かるといいなあ。でも、もし受かったら私とか美人だから大変かしら…… あっという間に人気が出ちゃいそう…… なんてね。下らない心配してないで今日も過去問を繰り返しやってテストに慣れておこう)とミサトは毎日勉強をしてプロ麻雀師団で活躍することを夢見るのであった。 プロテストまであと半月。
45.第十話 スグルの新人教育 スグルの働く鶯谷(うぐいすだに)の雀荘『富士』に新人(と言っても48歳。雀荘経験はあるが過去に2度迷惑かける形で辞めている)が入った。 新人の名は久本一夫(ひさもとかずお)。彼はそれなりに仕事をやった。まるっきりダメというわけでもない。だが、50分に出勤する奴だった。 別にそれ自体は責めることではない。従業員規定には55分には着替えて挨拶を終えた状態にするようにとあるのでギリギリ間に合っている。 ……が、問題は反対番との交代の時に起きた。 新人のカズオはその日21時30分スタートの卓に着いていた。そこに、遅番のスグルが出勤する。「おはようございます!」 するとカズオはこれはしめたとばかりに「ここ行けますよ!」と交代を主張してくる。東1局一本場21000点持ちの北家だった。つまり既に4000オールを引かれている。 優しいスグルはそこを交代するが、それを直後に出勤して状況を把握したマサルがカズオを呼び出す。「久本さんはなんでここスグルに打たせてんだ。しかも失点しておいて。スグルの方から交代すると言ったのか?」「えっと、違います……」「久本さんのいつもの出勤時間は50分なんだから30分スタートのゲームは交代してもらう訳にいかねえとは思わないのか?」「……え」「え、じゃねえ。いいか、この恩をスグルに返すまでは必ず30分に出勤してきなさい。今後50分に出勤とかさせねえからな。したら遅刻として扱う。当然ですよね」「そんな」「あなたはそうやって自分にだけやたら甘くしてきたから集団で不和をもたらして職場を転々としてきたんだよ。全て久本さん自身の責任だ。あまちゃんなんだよ。おれをあんまり怒らせるなよ。いいか、自分はもう歳だから生き方は変われないとかは絶対に言うな! おれはあなたのために今言うぞ。人生はまだ続くしあなたはずっとあなた
【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜 ――人はごく稀に神化するという。 ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。 そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。 この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。 ◆◇◆◇もくじ➖️メインストーリー➖️第1部 麻雀少女激闘戦記一章 財前姉妹二章 闇メン三章 護りのミサト!四章 スノウドロップ第2部 麻雀烈士英雄伝一章 ジンギ!二章 あなた好みに切ってください三章 コバヤシ君の日報四章 カラスたちの戯れ➖️サイドストーリー➖️1.西団地のヒロイン2.厳重注意!3.約束4.愛さん5.相合傘6.猫7.木嶋秀樹の自慢話➖️テーマソング➖️戦場の足跡➖️エンディングテーマ➖️結果ロンhappy end表紙イラストしろねこ。◆◇◆◇はじめまして、彼方です! 麻雀の楽しさを1人でも多くの人に伝えたくてこの物語を書いています。良いと思いましたらぜひ拡散の方をよろしくお願いします!この小説の読み方は──── ──これは時間の経過です。2つなら少しの、3つなら大きな時間の経過になります。── ────これは時間の遡りです。────これはちょっとした区切りです。◆◇◆◇これは視点変更か大きな区切りです。 これを意識していれば視点混乱などしないで読めると思います。それでは、彼方流麻雀小説の世界をお楽しみ下さい――
1. ――私は弱い。それを自覚したのはけっこう早くて。今でもその感覚はあるんだけど。 でも、弱いって得なこともあって。同じことを経験しても私の方が成長が多かったり、何気ないことから教えてもらえたりして。年下だろうが動物だろうが全てが教師になり得る。それが弱者の特権なのよ。ね、悪くないでしょ、そういうの。 私は弱い、とくにあの頃。まだ彼女達と出会ったばかりの頃。私は一番弱くって。一番、楽しんでた。第1部一章 財前姉妹 ~麻雀少女青春奇譚~ その1第一話 財前姉妹 ピピピピピピピピピピ……「やめ! 鉛筆を置いて下さい。答案用紙を回収します」 ここは日本プロ麻雀師団の試験会場。私はいまプロ試験を受けている。 休憩を挟んだら次は小論文だ。テーマはどんな麻雀プロになりたいのか。 私はそこに自分の想いを短く纏めた。【私のなりたいプロ】受験番号22財前香織 勝って笑うことは誰でも出来る。私は負けた時にも笑って勝者を讃えることの出来る人になりたい。真剣に向き合うことで負けの悔しさは増えるでしょう。つらくて涙の出る時も来るかもしれない。でも、本気でやり合えた試合を喜び。勝者を讃える人になりたい。私は麻雀そのもの。試合そのものを愛しているのだから。そんな器のプロになりたい。(なりたい、なりたい、か。……違うな。私はプロに、なりたいんじゃない。……必ず『なる』んだ!) そんな器のプロになりたい。のあと、私はこう加えて文章をしめた。 そしていつかは、誰よりも讃えられたプロに私は、なる。 これは後の麻雀界を大きく変えていく伝説の雀士たちの青春奇譚である。 ときは、遡る――────────────────── 私、財前(ざいぜん)カオリ。マナミと2人で財前姉妹と呼ばれる未来の麻雀プロよ。 私達姉妹は血の繋がりはない同い年の姉妹。親の再婚で16.17の時に姉妹になったの。でも、私達が打ち解けるのには全く時間は要らなかった。なぜなら私達は2人とも麻雀が大好きだったから。 女子高生で麻雀好きなんて、なかなかいない。なので奇異の目で見られるのを恐れた私は自分のこの趣味をなるべく隠していた。でも、同じ家で暮らす人にはバレるよね。まして姉妹で同じ部屋ならさ。 私の部屋には使ってない広いロフトがあった。そこを新しい家族であるマナミに使わせる事
2.第二話 類は友を呼ぶ 私、財前マナミ。旧姓は石井。カオリと2人で財前姉妹って言われる後の麻雀プロよ。ここではまだ女子高生だけど。 物語は高2の春に始まったわ。 私達は高2の春頃に親の再婚で一緒に暮らす事になって。同じ部屋を2人で分けて使ってたからプライバシーなんか無かったわ。(特にカオリには)でもそれが今では良かった気がするの。おかげでカオリが私と同じ趣味を持っていることにすぐ気付けたから。 カオリの部屋には麻雀の本が沢山あった。雑誌、漫画、戦術書。ここから察するにカオリの麻雀は理論で詰めてくものなのかも知れないと推測できた。 私は全く逆で、私の持ってる麻雀グッズと言えば携帯型ゲーム機の麻雀やリアルな麻雀牌など実戦ありきで、私は実戦経験を何より大切にするタイプなの。 だから私はこれは好都合と、カオリから学んでこうと思った。「麻雀部作んない?」 私は提案した。カオリには将棋部から探してもらうことにした。将棋部なら麻雀好きもいると思ったのだ。私は隣の席の黒髪の美少女を誘うつもりだ。彼女は佐藤ユウさん。普段は耳の隠れた髪型をしてるが私は隣の席だから彼女がピアスをあけてるのを知っている。そのピアスは小さなサイコロが2つピンゾロになってるピアスだった。サイコロを2つ使う遊びは麻雀しか私は知らない。きっと彼女は麻雀をする。そんな気がする。「佐藤さん。今日ちょっと放課後時間あるかな」 私は佐藤ユウに話しかけてみた。◆◇◆◇ 私は佐藤ユウ。少し歳の離れたお兄ちゃんが大好きな普通の高校2年生。うちは共働きで両親とも家にいなかったり家でも仕事してたりして小さい頃から私はお兄ちゃんに面倒を見てもらって育った。 そのお兄ちゃんも今では仕事に出ちゃってるからあまり遊んでくれないし。 わかってるよ。高校2年生にもなったらお兄ちゃんと遊んでる方が変なんでしょ。でも、私はお兄ちゃんと2人でやる麻雀が好きだったな。お風呂掃除とかゴミ出し係とか今日の晩御飯作るとか、そんなことを賭けてやる麻雀。おやつのプリンを賭けてる時に微差で負けたのには泣きそうだった。そんな時にも真剣勝負を汚したくないからって言って負けた私にはプリンを「やっぱいいよ」とか言って渡したりは決してしないお兄ちゃん。でも、最後に「もう飽きた」とか嘘ついて一口分だけくれるお兄ちゃん。 ああ、お兄ちゃん。大
3.第三話 テーブルゲーム研究部「…………ありません」 はー。負けた。私、将棋うまくないのかな。なんだろう、途中で面倒になっちゃうんだよね。読むの。自分の駒動かしてさっさと攻めたくなっちゃう。向いてないのかな。でも、悔しいな。 私、竹田杏奈。高校1年生。みんなにはアンって呼ばれてる。いとこのお兄ちゃんは将棋の天才で、私も自分で言っちゃうけど、そこそこアタマはいい方だからある程度、頭脳戦のゲームは強かった。 でも、ダメね。将棋は向いてないかも。攻めたい攻めたいって気持ちが前に出過ぎて読みが疎かになるのね。わかってはいるの。もう少し先まで考えなきゃって。でも、それが出来なくて。 それでも同級生の中では一番強かったんだけど、将棋部の上級生には敵わない。「やっぱ負けるとつまんないなー」と、私は当たり前のことを独りで呟いていた。 なんか、将棋にこだわることないかな。オセロとかチェスにも手を出してみようかな。自分の性格に合ったテーブルゲームがあるかもしれないし。 この学校の将棋部は強くて将棋部として知名度を上げていたが本来、この部活動の名前はテーブルゲーム研究部であり他のゲームも部室にたくさんあるのだ。私は久しぶりに倉庫を開けて別のゲームを見ていた。軍人将棋にダイヤモンドゲーム、モノポリーなど色々なゲームがそこには置いてあった。 その中で何だか分からない書道セットのようなエンジ色をしたケースが気になった。なんだろこれ。「よっ……と、なにこれ重っ!」コンコン! その時、部室の扉を叩く音がする。「どうぞー」「失礼します」 入ってきたのは黒髪ボブが似合う美人だった、青のリボンだから2年生だ。うちの学校はリボンが3色あって学年がわかるようになっている。今年度は1年生が赤色、2年生が青色、3年生は黄色のリボンである。正直赤が一番可愛い。私は今年ここに入れてラッキーだった。来年だったら試験を受けてすらいないかもしれない。黄色のリボンはピンとこない。少なくとも、私の好きな色ではない。青もしっくり来ない。性格に合わないと思う。赤の年度だったから入学を決めたのだ。 しかし、今入ってきた2年生には、やや切長の瞳に黒髪ボブで青のリボンというクールビューティーな組み合わせが見惚れる程似合っていた。「あなた、それ」 クールビューティーな2年生がその時急に私に近寄って
45.第十話 スグルの新人教育 スグルの働く鶯谷(うぐいすだに)の雀荘『富士』に新人(と言っても48歳。雀荘経験はあるが過去に2度迷惑かける形で辞めている)が入った。 新人の名は久本一夫(ひさもとかずお)。彼はそれなりに仕事をやった。まるっきりダメというわけでもない。だが、50分に出勤する奴だった。 別にそれ自体は責めることではない。従業員規定には55分には着替えて挨拶を終えた状態にするようにとあるのでギリギリ間に合っている。 ……が、問題は反対番との交代の時に起きた。 新人のカズオはその日21時30分スタートの卓に着いていた。そこに、遅番のスグルが出勤する。「おはようございます!」 するとカズオはこれはしめたとばかりに「ここ行けますよ!」と交代を主張してくる。東1局一本場21000点持ちの北家だった。つまり既に4000オールを引かれている。 優しいスグルはそこを交代するが、それを直後に出勤して状況を把握したマサルがカズオを呼び出す。「久本さんはなんでここスグルに打たせてんだ。しかも失点しておいて。スグルの方から交代すると言ったのか?」「えっと、違います……」「久本さんのいつもの出勤時間は50分なんだから30分スタートのゲームは交代してもらう訳にいかねえとは思わないのか?」「……え」「え、じゃねえ。いいか、この恩をスグルに返すまでは必ず30分に出勤してきなさい。今後50分に出勤とかさせねえからな。したら遅刻として扱う。当然ですよね」「そんな」「あなたはそうやって自分にだけやたら甘くしてきたから集団で不和をもたらして職場を転々としてきたんだよ。全て久本さん自身の責任だ。あまちゃんなんだよ。おれをあんまり怒らせるなよ。いいか、自分はもう歳だから生き方は変われないとかは絶対に言うな! おれはあなたのために今言うぞ。人生はまだ続くしあなたはずっとあなた
44.第九話 もう1人の受験者 私、財前マナミ。今度プロ麻雀師団の試験を受けるから只今猛勉強中よ。 カオリに例の数え役満のクイズを出したらやっぱりというか予想はしてたけど、解けなかった。 カオリはどこまでも真面目なのでアンカン3つして裸単騎にするなどと言う非現実的な答えには辿り着けないだろうなとは思ったが、案の定だった。カオリはなぞなぞ的な問題は苦手なのだ。しかし、その他の『4人が4人とも②③の2面待ちだった。4人の待ちの形を答えなさい』とか『現在1600の仮テンをしている。手替わりAを引けば8000点。手替わりBなら12000点。手替わりCなら32000点になる仮テンだ。現在の仮テンはどのようなものか答えなさい』といった問題は解けたので頭がカタイというわけでもないのだが。 まあ、マスターが言うには別に満点である必要はないから気負わなくても2人ともきっと合格すると思う。と言われたけど、そんな事言われたら落ちた時恥ずかしいので余計に勉強しとかなきゃとなったわよね。◆◇◆◇ 財前姉妹がバイト先で勧められてプロ試験を受けようとしている時、もう1人プロ試験を受けようとしている者が麻雀部にいた。井川ミサトである。 ミサトはプライドが高いので落ちた時のことを考えて今回のプロ試験を受けることを誰にも言っていない。ちなみにカオリ達も誰にも言ってないので試験会場で見つけてお互いに驚くことになるのだが。(プロ試験受かるといいなあ。でも、もし受かったら私とか美人だから大変かしら…… あっという間に人気が出ちゃいそう…… なんてね。下らない心配してないで今日も過去問を繰り返しやってテストに慣れておこう)とミサトは毎日勉強をしてプロ麻雀師団で活躍することを夢見るのであった。 プロテストまであと半月。
43.第八話 クイズ 財前姉妹はバイトで部活でと麻雀を打ち続けた。実践経験も積みながら研究も怠らず、同じ高みを目指す仲間も揃っている。環境に恵まれていた彼女達の成長速度は凄まじいものであった。その上カオリは神様からのコーチまで受けているのだから上手くならないわけがない。 ハッキリ言ってカオリは凡人だった。勉強は出来るけど天才というような大袈裟なものではないし、スポーツも特に普通の結果しか出せない。ただの少女。なにか特別なことがあるかと言えば、麻雀がとてつもなく好き、異常な程に。ということだけだ。そこだけが平凡ではなかった。 しかし、それこそが才能というものであり、天才とはそのたった一つの”異常な程好き”があれば誕生するのである。 ──── カオリ達のバイト先は女流プロの成田メグミという選手が平日働いていた。学生のカオリ達とはシフトが被らないので会った事がないのだが、彼女が居るのでこの麻雀『ひよこ』には毎月いくつかのマニアックな麻雀雑誌が届く。なんでも読むカオリはその雑誌『月刊麻雀プロ』にも興味を持ち読んでいたらマスターから「お姉さんと一緒にプロ試験受けてみたら? 試験は来月末だから勉強する時間はあるし、受験料は店が出すから」と言われた。「へっ!? 私がプロですか?」「カオリさんもマナミさんもたいした腕だ。これからの麻雀界に必要な才能だよ。挑戦しておいでよ! プロの世界に」「でもまだ私は大学生だし。早くないでしょうか」「早いくらいがいいのさ。人生はそんなに長くないぞ」 カオリは自分にそこまでの力があるとは思えなかった。しかし、これこそがカオリの良さで、いつまで経ってもまだ未熟だと本気で思うカオリだからこそ、鍛錬をサボらない。慢心しない。いつまでもチャレンジャーなのだった。「大丈夫だ、カオリさんもマナミさんもプロになれるよ! 受けてみなよプロ試験!」「……
42.第七話 womanの過去 井川ミサトはあえて自転車通学をすることで肉体を鍛えていた。電車とバスで行けばいいものを常にシンプルなギアすらない自転車で行動して肉体強化トレーニングを日々の暮らしの習慣に取り入れた。 高い守備力は高い集中力から生まれる。集中力を欠かさないためにはまずは体力だというのがミサトの出した答えであった。 守備のスペシャリストである【護りのミサト】の点箱は金庫と言われる程、一度手にした点棒は出さない。ミサトから引き出すにはツモるしかないと皆がそう思うくらいにはミサトの守備には隙が無かった。 ある夜、ミサトがトレーニングで走っていたらカオリがいた。バイト帰りだろうか。 話しかけようとしたが、カオリは誰かと話していた。ケータイで通話中だろうかとも思ったが両手は上着のポケットだしイヤホンもしていないように見える。(誰と何を話してるんだろう) ミサトはなんだか怖くなって聞けなかった、それにカオリは楽しそうに話していたので放っておくのが一番かもと思って空気の読めるミサトは見なかったことにした。 でも、いつかはこの日のことを教えてもらおうと思ったのだった。◆◇◆◇ カオリはその日、赤伍萬キーホルダーの前の持ち主のことをwomanに聞いていた。「ねえwoman。あのキーホルダーを私にくれた彼はどんな人だったの?」《ああ、彼はねえ。面白い人でしたよ。とっても走るのが速くてね。麻雀も速度と手数で勝負するタイプでした。韋駄天なんて呼ばれてて。麻雀も人間性も良かったです》「へぇ。好きだったんだ」《ちょ、カオリ。私は付喪神ですからね? でも、まあ。うん…… 少し考えが足りない所やヤンチャな部分もありましたが、基本的にはとても善良で、虫も殺さないくらい優
41.第六話 生きがい《最近腕を上げてきましたね。カオリ》「そうかな、私には分からないけど」《うまくなってきてますよ。相手の癖なども把握しているし対応力が付いたように見えます。カオリは敵戦力を見極める目を持っているんですね》「褒め過ぎだよ」 バイトあがりの帰り道、上着のポケットに入れた赤伍萬を握りながら歩く。 雀荘には赤の予備牌がたくさんあるのでマスターに断って1枚貰った。素直に「赤伍萬が好きなので1枚貰っていいですか」とお願いした。「たくさんあるから別にいいけど、1枚だけあっても仕方ないだろ」と言われたが「部屋に飾ります」と言いごまかした。本当は1人の帰り道に一緒に話す友達が欲しかったのだ。まあ、womanは友達というか神様なんだけど。《今日のチーなんて素晴らしい発想でしたよね。アガリに向かうつもりではない鳴きをするなんて》「ああ、親の一発消したやつね。あれはだってああでもしないと……」《わかりますよ、仕掛けていた下家を応援したんですよね》「そう! さすがwoman!」《親のリーチの一発にはさすがに勝負は効率が悪いとし仕掛けた下家がオリを選択してしまうというパターンになることを嫌ったんですよね。そこでカオリが一発消し。あのチーからは下家への(一発は私が無理矢理消したからアナタはオリないで頑張って! お願い! 一緒に戦って!)という願いが聞こえるようでした》「womanは全部わかってくれるんだね」《ふふ、神様ですからね》「そうでした」 カオリは夜道を歩く時はこうしてwomanとずっと話しながら歩いた。その方が誰かと話していると思われれば変質者対策としても機能し安全だとも思ったし、何より神様との麻雀の会話は本当に楽しかった。◆◇◆◇ 一方、その頃。スグルの方は店が大盛況していて日暮里(にっぽり)の2号店に続き3号店をオープンさせようかという話があった。スグルは目の回るような忙しさというものを初めて体験して、大変な思いをしていたが、同時に仕事にやりがいを感じてもいた。「萬屋(よろずや)さん、おれこの仕事場、やりがいがあって好きかもしんないです」「そうか、やりがいね」 そう言うと萬屋マサルは少し嬉しそうに笑った。「萬屋さんも、この仕事が好きなんすか?」「そうだな、おれはこの仕事にやりがい以上のものを感じている」「やりがい以
40.第伍話 一番大切な顧客 スグルは『富士』で身内からの信頼をあっという間に得ていて、1ヶ月もする頃には遅番に居なくてはならない存在となった。 というのも、スグルは信頼獲得のとても単純で簡単な方法を分かっていたから。それは誰よりも早く出勤すること。それだけだ。 スグルは30分前には必ず出勤していた。たったそれだけだが、それは《私はやる気があります!》というメッセージを与えるには最も効果的な手だった。信頼されてないということは不利なこと。そこに気付いているスグルなので必ず早く出勤して信頼を勝ち取った。◆◇◆◇ その頃、財前姉妹はそのスグルの考えを社会に出る前に知っておいて欲しいこと、として教えてもらっていたからさっそく実行していた。30分前出勤 これを実行するだけで高評価になるならやるべきだ。とくに麻雀業界は必ず反対番がいるので自分らを早く帰してくれる反対番の存在はもはや神よりもありがたい。既に12時間労働しているのに反対番が中々出勤しないがために本走で残業などあってたまるかということだ。 身内に感謝されないスタッフが店に良いスタッフであるわけはない。まずは身内に好かれる人であれ。それがスグルの教えであった。雀士は雇われであれ個人事業主のようなもの。身内とは接点が一番多い、つまり身内こそが一番大切な顧客なのである。 お客様だけが顧客ではない。自分にとっての顧客とは対局相手となりうる全員のことだと知ること。そう、スグルは教えてくれた。 この世に敵はいない。いるのはお客様だけ。それがスグルの考えなのだった。 さて、アルバイトを始めたので麻雀部へと顔を出す時間が減った財前姉妹だが、麻雀部はそれでも変わらず稼働していた。特に、向上心のあるショウコやサトコが料理研究会の無い日は毎回来るのでアンとユウはほとんど毎日2人に基礎戦術を教えていた。「理由もなく切る牌はない。その牌が打たれたという現象の裏にはそれをさせた理由が必ず付いてくる。影から光を知るようにそれを読み取るのが読みの一歩目」とアンは読みを教え。「読みがあるなら読まれもある。相手はどう読み取るかを把握して読ませて誘導するのが罠作りのファーストステップよ」とユウが教える。 最初は基礎手順すらちんぷんかんぷんだった2人だが、全員のレベルがハイレベルな環境にいたからか、あっという間にこれらの会話
39.第四話 雀荘ひよこの新スタッフ「せっかく真面目なやつが来てくれたと思ってたんだがなあ」 マスターは誰もいない店内でそうポツリと呟いた。強いやつ、ズルいやつ、賢いやつ、モテるやつ、悪さをするやつ、色んなやつと働いてきた。この店を作ったその時から、自分の店を任せて安心なやつを求めて人を探してた。(アイツになら、継がせるのも良かったと思っていたが、まだアイツは麻雀を強くなりたいという情熱があったようだ。……武者修行に出たいから辞めますなんて、やっぱりアイツは真面目そのものだなあ)「ふふ」 マスターは笑みが溢れた。スグルが行ってしまったのは痛いが、その行動こそ、スグルらしいなと思うと笑ってしまう。(頑張れ) ただそう思った。アイツに大きくなって欲しい。挑戦者であって欲しい。 午前中の店内はまだ誰もいなくてマスターは1人で朝の仕事をやっていた。 前日の片付けやフードメニューの仕込みなどやるべきことは割とある。 するとガシャンと扉が開いた。ずいぶん早いが誰だろうか。「いらっしゃいませ!」 入ってきたのは場違いなくらい若くて綺麗な2人だった。「えっと、4名様かな?」 こんな時間に来客とは珍しい。多分、貸し卓の新規客だろう。にしても綺麗だ。雀荘に来たのは何かの間違いではないだろうか。「いえ、私達フリーで少し打とうと思って来ました。でも、すぐに出来ないなら出来ないでいいです。本題から済ませるので」 フリー? 本題? どういうことだ。「アルバイト募集してませんか? 私達ここで働きたいんです。土日祝日だけになりますけど。良ければ雇ってください」「えっ、どういうこと?」 マスターは驚きのあまりワケのわからない返しをしてしまった。こんなに驚いたことは今まで生きてて初めてかもしれない。「ですから、ここでアルバイトを。土日祝日だけ。どうですか? と」「このお店は麻雀をするとこだけど?」「もちろん分かっています」「私達は高校生のころ佐藤スグルさんに鍛えてもらったんです。今は大学生なので年齢は問題ありません」 これは夢だろうか。スグルがいなくなったと思っていたらスグルの弟子がやってきた。しかもこんなに綺麗な女の子が2人だときてる。「……えっ、と……分かりました。じゃあ採用するのでシフトを作りましょう。初日は2人とも来てもらうけど、基本的には
38.第三話 働こう! 少し離れた土地で麻雀をするだけ。それだけのことかもしれない。 牌はいつもと変わらないし、ルールもほぼ同じでやる事は一緒。 だが、この一戦はスグルには大きな挑戦だった。『東京で勝つ』そういう意味があった。 自然と指に汗がにじむ。いつも通りの麻雀なはずなのに緊張して固くなる。(落ち着け…… 毎日やってることを今日もやる。それだけだ) 少し手が震える。格好悪い。止まれ。震えるな。止まれよ。 スグルがそう思っても簡単に制御できるものでもない。震えは気付かれませんようにと願うしかないが、多分全員気付いてる。みっともなくて恥ずかしい。 せめて、せめて麻雀は勝たないと。みっともない姿でみっともない成績を出すことなど絶対あってはならない。男として。 だが、それは叶わないことになる。スグルの東京挑戦初日はボロ負け。(だめだ、使い物にならないと思われたに違いない。畜生! 畜生畜生!!) そう思っていたスグルだが。「佐藤さんお疲れ様。今日はついてなかったけどスタッフには向いてるね。初めてで緊張したんでしょ? そのくらい気を引き締めてるような人の方が私はこの仕事に向いていると思ってる。初めてなのに気を緩めてるような人は信頼できないしね。明日からもよろしく頼みます。ウチに来てくれてありがとう」と萬屋(よろずや)に言われた。萬屋は人を見る目がある。「こちらこそ、ありがとうございます。よろしくお願いします」 散々な成績を出した初日だったがスグルの性格を萬屋マサルは初日で見抜きそれ以降萬屋マサルは佐藤スグルを自分の右腕になれるよう仕事に麻雀にと仕込んでいくのであった。 ◆◇◆◇「そうだ。働こう!」 財前姉妹はアルバイトをしようと思い立つ。それはもちろん修行のため。となるとそのバイト先はもちろん雀荘だ。雀士にとっての修行先など雀荘しかない。いや、他の仕事でも修行にはなるが、せっかくなのでやはり麻雀を仕事にしたい。「スグルさんが働いてたとこなんていいんじゃないかな。スグルさんが辞めて募集をかけてる最中のはずだし」「なんて言ってたっけ?」「『ひよこ』って言ってたわよ確か、そこ行ってみよう」 まずはどんな所にあるのかを確認するため2人はひよこへと行ってみる。『ひよこ』は水戸駅から徒歩15~20分かかるかどうかの所にあった。 「と
37.第二話 変わった宝物 私、財前マナミ。私にはちょっと変わった宝物があるの。それは麻雀マット。牌にも思い入れはあるけど、私の宝物はマットの方なの。なんでかって言うと話が少し長くなるんだけど聞いてくれる? 石井家は父と母と姉と私の4人家族でした。 小さい頃は4人でよくコタツの裏を使って麻雀をしてた。私はお姉ちゃんに教えてもらいながらだったけど6つ上のお姉ちゃんは丁寧に私がわかるように教えてくれたからあまり分かっていないなりに楽しく遊べた。 でも、そんな時代は長く続きはしなかった。だってお父さんとお母さんはそのうち離婚して私たちは小さなアパートに引っ越してしまうから。 私が麻雀を好きだったので牌は持ってきたけどコタツは買い替えたから裏面にしても緑のラシャが無かった。だからお姉ちゃんが買ってきてくれたの、麻雀マットを。あれはお姉ちゃんが私にくれた初めてのプレゼントだった。 私はそのマットを大事にしたわ。使う度にコロコロして。シワにならないように丁寧に扱って。そのうちにお姉ちゃんは自立して家を出て行ってしまうのだけど、私はいつかお姉ちゃんが帰ってきた時はまた遊んでもらおうと思って牌とマットを大切に管理した。特にお姉ちゃんに買ってもらった麻雀マットを大事に大事に扱った。 その後、お母さんは財前さんと結婚した。──────────────────《……で今に至る。というわけでラシャの付喪神が現れたみたいですね》(マナミの過去の記憶までわかるんだ)《とーぜんよ! わた…… 時間切れでwomanが消えた。カオリはキーホルダーをツンとつつく。(なんて言ってたの)《2回言うの恥ずかしいんですけど…… とーぜんよ! 私は神様ですよ? って言いました》(それ、2回言うの恥ずかしいね) クククとカオリは静かに笑う。《もう…… カオリのイジワル!》(でもそっかー。マナミにそんな過去があったのかー) カオリはマナミのお姉さん、つまり自分にも義理の姉である石井奈央(いしいなお)には1回だけしか会ったことはないが、この過去の記憶からとても優しい人なんだなと知って嬉しい気持ちになった。《能力のことはマナミさんには言わない方がいいかもしれませんね。彼女の能力もだし、私の存在も。知らないままの方が都合の良いこともあります。それに、きっとラシャの付喪神様は